ルエミーザ博士の考古学講義 第十一回 「死滅の碑」

今日は死滅の碑の講義をするぞ。

ふふん、名前は不吉だが私はこのフィールドが大好きだ。
なんとなくだがスパイス臭が漂うんだな。
今までの講義で、各フィールドが世界各地の巨大文明の原型ではないかという話をしてきたが、メジャーどころの文明でまだ出ていない文明が残っている。
そう、みんな大好きインダス文明だ。

なんだ、好きじゃないのか?
私は好きだ!
なんといってもカレーの故郷だからな。

インドというとヒンドゥー教で、それに属する愉快な神様たちが有名だな。象の顔をしたガネーシャとか。
しかしヒンドゥー教自体は今まで講義してきた巨大文明と比べると、それほど古いものではない。
しかしこういう他にはない宗教が生まれる土壌はインダスの時代からあったと思われる。
でなきゃこんな愉快な世界観を作り出せるわけがない。

死滅の碑という不吉な名前だが、もちろんそれには由来がある。
インドには世界最古の叙事詩といわれるラーマヤーナという物語がある。
インダスの神々が活躍する、神話といってもよいほどのものだ。
その中に考古学者やオカルト主義者の興味をそそる記述があるのだ。
ラーマヤーナだけに限らず、他のインド叙事詩や神話の中にも大戦争の記述がある。
すべてを飲み込む巨大な光、一瞬にして炎に包まれる街、跡形もなく溶けてしまう人々。
どうだろう?おそらくこの記述を見てほとんどの人が核戦争のような光景を思い浮かべるのではないだろうか?
叙事詩に書かれているだけならば誇張された神話と言えなくもないが、それだけではないから考古学者を惹きつける魅力があるのだ。

インダス文明の遺跡といわれるモヘンジョ・ダロやハラッパー遺跡。
そこから、逃げるまもなく一瞬にして死んでしまったような無数の遺骨や、とてつもない高熱で溶かされてガラス化したレンガなどが出土しているのだ。
現地には立ち入ってはならない土地と呼ばれる場所もあり、そこでは残留放射能が強く残っているなんてこともあるらしい。

そんなわけで、古代インドでは高度な文明が栄え、核戦争で滅んだ、ラーマヤーナに書かれていることは事実では?という話になるわけだ。
前置きが長くなったが、この死滅の碑も同じような特徴が残っている。

床や彫刻が高熱で溶かされたようになっている箇所がある。
なによりおっかないのが、溶けた様な人型の何かがごろごろしてるんだな。

どれも後の世に核戦争の様を再現したようには見えず、確信はないが、生きた人間が高熱で溶かされて石化しているように見えるんだなぁー。
しかし人間が高熱で溶かされるとこんなふうに石化するもんなんだろうか?
もとから土で出来た人型のものが溶けたらこうなるような気もする。

LA-MULANA遺跡で発展した文明が地上に出てインダス文明を作り、そこで核戦争を起こしたと同時に死滅の碑の中でも核戦争をやってしまったんだろうか。
さすがに放射能測定器なんて持っていってはいないので、そこら辺の検証は出来なかったんだがな。

そんなインダス様式の装飾やインド叙事詩を思わせる形跡がある中で、場違いに見えるものがここにもある。
この写真を見てくれ。他のフィールドには見られない巨大な顔の石像だ。こいつは床や壁と違ってほとんど溶けてない。

ぱっと見、ツタンカーメンに代表されるような、エジプトのファラオ像のような形をしている。
しかしエジプト文明の垂直水平を強調したような様式ではなく、より有機的な線で作られている。
インダス文明とエジプト文明に何か接点があるのだろうか?
それともそれら2つの文明の原型であるLA-MULANA遺跡内で継続した文明だったのだろうか。

これはなんとなく、私の勘でしかないのだが、エジプト文明のファラオ像を別の様式を持った文明が模したらこんな感じになるんじゃないかと思える。
あるいは元々がこっちが正確な形で、これをシンボライズ化したのがエジプトの絵画なのかもしれない。
そこでこうは考えられないだろうか。
これだけ巨大に作られるということは、死滅の碑に住んでいた文明にとって崇める対象であったはずだ。
王様とか有名人とかいうレベルではないほどの奉られ方だ。
おそらくは神、創造主ぐらいの扱いを感じさせる大きさだ。
ということは、死滅の碑の文明人を作り出したのは太陽神殿の文明人なのでは?

人を作り出すというとファンタジーの世界に入り込んでしまいそうだが、そう考えてみると太陽神殿には不死の研究、命の操作を思わせるような痕跡がある。
エジプト文明自体がミイラなど魂を死体に定着出来ると考えて作り出されたものがある。
LA-MULANA遺跡ほど高度な文明であれば土くれに生命を与えることぐらい出来たのかもしれない。

いやー、いつになくオカルトな講義になってしまったな。
スパイス臭がするなどと言ってしまったが、死臭だよな、これ。
他にも特徴といえば、この死滅の碑、おかしなことに他のフィールドのように明るくないのだ。
地下にある遺跡と考えればこっちのほうが自然なのだが、火を灯さないと真っ暗で何も見えん。
わざとそうしてあるようにしか考えられない。
さらに他のフィールドと比べると、なんだか狭い。
部屋が少ないというか。隠し部屋でもあるんじゃないかと思われる。
ま、あるんだけどな。遺跡が一般公開されても絶対に入れないような隠し部屋が。

このフィールドに関してはまだまだ語りたいことがあるんだが……腹が減ってきた。カレーを食いたい。
あー、だめだ。我慢できん。あとは自習!
質問があれば、私は学食でコロッケカレーを食っているから。

ルエミーザ=小杉