ルエミーザ博士の考古学講義 第八回 「太陽神殿」

文明の特徴を考えるとき、まず頭に浮かぶのが地上に残された数々の遺跡や文献、地理的な要因だが、もっと重要な要素がある。

それが思想というものだ。何を考えて物を作ったのか、どういう価値観で何を信仰していたのかなどだ。この人の考えの中心となるものがわかっていないと、残された建造物に対する解釈も変わってしまうからだ。
有名なバベルの塔の伝説で言えば、バベルの塔の神話と元となる宗教観などがわからなければ、神に対する挑戦なのか、神と同じ位置にたどり着きたかったのか、神への信仰のために作られた塔なのか、わからないわけだ。

世界に記録の残る巨大文明の中でも独特の世界観をもつのがエジプト文明だ。
二人の女神が宇宙そのものを示し、太陽のめぐりを太陽神を乗せた船が女神の体に入り、再び生まれてくることに例えたり、人の死後に魂が再び体に戻れるようにとミイラ技術を作り上げたりと、エジプト文明は他の文明よりも人の一生、特に死に関する考えが独特である。
仏教の輪廻転生のような魂が残り別の物に渡るという考え、中東圏の死後に特別な世界に住めるという考えなど、人の一生は有限のものとして扱われているものが多い中、エジプト文明の場合は魂が元の体に戻るという考えである。
これは有限の生を超えた、不死を求める考えである。巨大な文明であったからこそ、永遠に続く繁栄が当たり前という考えが根付いたのかもしれない。

さて、今回の講義は太陽神殿だが、ここもまたなかなか不思議なフィールドだ。
前回の講義の最後にエジプト文明について復習しておけといったが、この太陽神殿はエジプト文明に非常に似ている。もちろん、いままでの講義の内容も踏まえると、こちらがエジプト文明の源流なのだろう。
ということは、LA-MULANA遺跡の中で見ても太陽神殿は独特の文明圏を持った人類に作られたのではないかと思える。他のフィールドに比べると造りが巨大なのだ。LA-MULANA遺跡の中心と言えるほど、ここから多くの別フィールドにつながっている。そのためかどうかは知らないが、石碑に書かれていることも様々なフィールド、文明の話が多い。LA-MULANA遺跡を巡る際の中継地点とでも言おうか。
では詳しく見ていこうか。


エジプトといえばピラミッドといわれるように、どうやって運んだのか未だに解明され尽くしていないような巨大な石造りの遺跡、他の文明にない独特な神々、その他にもピラミッドパワー、天体との位置関係や数値の一致など、数多くの映画や小説の題材にされるぐらい魅惑に満ちた文明だ。
太陽神殿にも巨大なピラミッドがある。エジプトにあるピラミッドとは若干様式が違うが、何より地下に巨大な空間を作り出し、その中に巨大なピラミッドを築く技術がすばらしい。エジプトのカルナック神殿を思わせる大列柱室は一見の価値ありだ。このピラミッドの頂上には巨大な太陽を模したレリーフがある。このフィールドが太陽神殿と呼ばれるゆえんであろう。

このレリーフはエジプト文明というよりもインドの絵画様式に近い顔をしている。前回の講義で紹介した遺跡入口の壁画にこの太陽のピラミッドを示しているようなものがある。この絵から単純に連想するならば、太陽のピラミッドのどこかから逆さになっている月のピラミッドに通じる道があるのだろうか。
もちろん私はその道を発見して月のピラミッドを目にしているのだが、その道は意外なところに隠されていた。どこに隠されていたかは、将来LA-MULANA遺跡が一般公開された時にでも確認してみてくれ。私が死ぬ思いで見つけ出したものを講義でさらっと教えるわけにはいかん。考古学は行動が一番だ!自分の目で確かめてくれたまえ。

ピラミッドの次に目に付くのが、巨大な神々の像だ。
諸君がちゃんとエジプト文明の復習をしてくれているならば、これらの神々の名前と容姿ぐらいはすぐにわかるだろう。
書物の神トトの像がある部屋には碑文が山のように隠されていたり、太陽ピラミッドの周りには死に関連する神々が並んでいたりと、遺跡の部屋の謎に関連する神が配置されている。

神々の名前はどうやらエジプト文明に残る神々の名前と同じのようだ。後の文明にそのまま名前が残るほどに人々の心に深く根付いた神話があったのだろうな。事実、ギリシャ神話などにエジプト神話を源流としていると思われるエピソードが多い。不死鳥フェニックスはエジプト神話のベンヌ鳥が伝わったものだし、聖母マリアを代表とする慈母的な象徴などはイシス神がルーツという説もある。

このように、エジプト文明のルーツが感じられる壮大な遺跡の中にひとつ、妙に浮いているものがある。

それがこのトロッコのようなものである。なんとなくエジプト文明の棺のようにも見えなくもないが、車輪がつけられていることからも、これが棺ではないとわかる。それっぽく模してはあるが、明らかにこれは太陽神殿の文明とは別、かなり後の時代に後から取り付けられたものと思われる。

太陽神殿に限らず、遺跡内のほぼ全ての場所に後の時代に手を加えられたと思われる改修の後がある。遺跡の全てを把握している者が、ある目的のために遺跡全体をいじっているように思える。前回の講義で触れた、何者かが遺跡全体を監視している、遺跡の謎を解ける力のあるものを待っているといったこともあながち間違いではないのかもしれないな。

最初に触れたエジプト文明独特の生死観の話だが、残念ながら太陽神殿にはそれほど痕跡が残っていない。石碑などはほとんど後の者が書いたもので太陽神殿を築いた文明人の話が少ない。
しかしピラミッド内部に生命の誕生を意味する仕掛けがあったり、これから先の講義で語るLA-MULANA遺跡全体の謎が見えてくると、太陽神殿を築いた文明の生死観が見えてくるのだ。実はこの文明は死から逃れるために永遠の命を模索し、逆に生命を作り出す技術を産み出しているのだ。

ふふん、興味が出てきただろう?しかし詳しい内容は先の講義にとっておこう。それまでは休まず講義に出席するようにな!

ルエミーザ=小杉