ルエミーザ博士の考古学講義 第七回 「旅立ちの村」

よう。私の休暇に合わせてずいぶんと休講にしてしまったな。
今日は今までの復習の意味も込めてLA-MULANA遺跡の外、旅立ちの村についての話をしよう。

私の親父をLA-MULANA遺跡に案内したのがその村の住民だったわけだが、どうやら彼らは遺跡に入るものを選んでいるふしがある。
つまりあの遺跡を代々守り続けている一族の村らしい。無論、どれだけ遺跡を守ろうが人目を盗んで遺跡に盗掘に入る輩はいるようで、村人が完全に遺跡に入る人間を排除できているわけではないらしい。
私が遺跡に入ったときは入口に封印がされていたのだが、それは盗掘者が増えてきたために取り付けられたらしい。それまでは入ってしまった盗掘者には何も対処していなかったらしい。

村人は皆おだやかな人たちで、盗掘者を追い回して殺すような部族には見えない。あー、ただ調査のための道具を買おうとして金の持ち合わせがなかった時に売り子のねーちゃんに追いかけられたな。あのねーちゃん、俺の腕をつかんで思いっきりねじりやがるんだ。彼女だけはあの村でただ一人攻撃的だったな。

遺跡を守る一族という割には盗掘者をほったらかしにしている理由は、遺跡の中に入るとすぐに理解できた。
遺跡のいたるところに遺骨が転がっているのだ。遺跡を作ったような古代人の遺体ではなく、遺留品などを見ても現代人だとわかる。大勢の盗掘者が遺跡の中で息絶えているわけだ。中には数百年前のものと思える遺骨もあった。

そう。つまり遺跡に入った者をわざわざ追い回す必要がないわけだ。不用意に遺跡に入ったもの、お宝を奪おうとする輩を殺すための罠が無数に仕掛けられているのだ。村人の手引きなしに遺跡に入ること自体が死を意味するわけだ。
そもそもこの村の周りの自然自体からおかしい。見たこともない動物がうろうろしている。妙な鳥がいるので村人に尋ねてみたら「コカトリスだ。」という。コカトリスって西洋の伝承にあるモンスターじゃないか。それどころか村のはずれに体中に目玉がある巨人がいたぞ。彼らはそんな中で疑問も持たずに生活している。

村の規模は小さく、村の様子から人種や文明を探ることは難しかったのだが、生活様式や衣装、村の所々に残る石造りのトーテムポールのようなもの、小さなピラミッド状の祭壇などから、おそらくネイティブインディアンや南米などに生活する物質文明に頼らず自然と共存している部族の源流なのではないかと思える。彼らがなぜ物質文明を破棄しているのかは、そのときはまだわからなかったが理由はある。

で、この村の長老というのがまた曲者でな。自然と共存生活する部族の長の癖にパソコンマニアだ。しゃべることも何かおかしい。なんか額に妙な刺青がある。聞いてみるとLA-MULANA文字で「7」という意味らしい。気は確かか。
しかしこの長老がいなければ私もLA-MULANA遺跡の謎に挑むことは不可能だった。とはいえ1から全てを教えてくれるどころか、ろくな手ほどきもしてくれない。遺跡の謎に自力で挑めといわんばかりの態度である。まるで遺跡の謎を解く者が現れるのを待っているようにも感じる。この遺跡自体が何者かを選び出すための巨大施設といえるのかもしれない。まぁそんな長老ではあるが、私が遺跡の謎の確信に迫るとそれなりに手助けをしてくれた。私の親父も遺跡の謎に挑む力があると認められたのだろう。

さて、この村にはもう少し重要なものがある。

これは村のそばにあるLA-MULANA遺跡入口にある巨大石版だ。ひとつはインドネシアに残る割れ門のような形をしているが、様式が違う。何か物語のようなものがレリーフで描かれている。下半身が蛇のような人間、羽の生えた人間、上半身が魚の形をしている人間などが描かれている。遺跡の中の物と比べると若干つくりが新しいので、後の人がLA-MULANA遺跡の歴史を刻みこんだのだろうか。

もうひとつの石版のほうは一番目立つのが巨人と巨大な女性の顔のレリーフだが、そのほかにも様々な情報が織り込まれている。4人の男、2つ並べられた器のようなもの、上下につながったピラミッドのようなもの、一つ目の怪物、双子を助ける男など。特に重要と思われるのがこの巨大な一つ目のレリーフだ。

この中では一見、意味のなさそうな模様に見えるが、この一つ目レリーフはLA-MULANA遺跡のいたるところに点在するのだ。「目」をシンボル化したものは多くの文明で用いられている文様だが、見る、見抜く、見通すなどの意味から、全てを監視するもの、神の視点というような意味合いを持たせるものも多い。それがこうも沢山存在していると、遺跡の中の何者かに監視されているような気になってしまう。

今回の講義は謎かけのような感じになってしまったが、これは後の講義につながる話なので覚えておいてくれ。全てのフィールドの謎や歴史が見えたとき、初めてわかるようなことが地上に記されていたりするのだ。おそらくはこの遺跡の全てを知っているもの、この村の先祖たちだろうか。そういう者たちが残した遺跡の歴史案内、ガイドなのだろう。

それにしては遺跡入口の祭壇にとってつけられたような長老の石像が腹が立つんだがな。では今日の講義はこのへんで。次は太陽神殿の講義を行う。エジプト文明の復習をしておいてくれ。

ルエミーザ=小杉